刑事コロンボ第29話・S4E4『歌声の消えた海(Troubled Waters)』は船上での事件を描いたエピソードです。ロサンゼルスからメキシコへ向かう豪華客船「シーパレス号」でのコロンボ夫妻の旅行中に殺人事件が発生し、休暇中のコロンボ警部が捜査に乗り出します。この記事では、あらすじ、登場人物とキャスト、犯人の偽装工作や結末、感想、考察、小ネタ(豆知識やトリビア)などをまとめています。
あらすじ
中古車ディーラーの社長であるヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン)は、愛人のショーガールに金銭を要求されたため、ショーガール殺害を計画します。
ダンジガーは豪華客船でクルージングの最中に、心臓発作のふりをして医務室に入り、アリバイを作ります。そして、ショーの休憩時間に医務室を抜け出し、ショーガールの部屋で愛人を銃殺。犯行をショーガールに言い寄っていたバンドの男になすりつけます。
たまたま同じ船に乗っていたコロンボは船長の依頼で事件の捜査を始めます。
バンドの男の犯行を裏付ける証拠が出るなか、コロンボは犯行にマスターキーを使っていること、医務室に羽毛が落ちていたことなどからダンジガーを疑います。
バンドの男が犯人ではないと確信するコロンボは決定的な証拠を得るため、ダンジガーに「犯行で使われた手袋が見つかれば、バンドの男を確実に起訴できる」と嘘をつきます。
コロンボの話を聞いたダンジガーは、犯行に使った手袋と同じゴム製の医療用手袋を船内に隠します。このゴム製の手袋の内側には指紋が残っており、手袋発見後すぐに、ダンジガーの隠した手袋であることが明らかになります。
犯人のダンジガーは、手袋が犯行に使われたとは限らないと話し、わるあがきをしますが、手袋を隠した理由を問われ、窮し、罪を認めます。

©Universal City Studios
登場人物とキャスト
- コロンボ警部(ピーター・フォーク / 吹替:小池朝雄)
妻が缶詰の懸賞で当てたアカプルコ行きの船旅を楽しんでいたが、乗船後まもなく妻とはぐれてしまい、船内をさまよう中で事件に遭遇。船酔いに苦しみながらも、鑑識の助けなしに、鋭い観察眼と地道な捜査で真相に迫る。 - ヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン / 吹替:西沢利明)
犯人。中古車販売会社の社長。過去の愛人ロザンナに脅迫され、社会的地位と妻の財産を守るために殺人を計画。知的で冷静だが、コロンボに追い詰められ墓穴を掘る。 - ロザンナ・ウェルズ(プーピー・ボッカー / 吹替:中村晃子)
被害者。船の専属バン ドの歌手。ダンジガーを脅迫したことで、彼の逆鱗に触れ殺害されてしまう。 - ギボンズ船長(パトリック・マクニー / 吹替:柳生博)
豪華客船の船長。事を荒立てたくない思いから、コロンボに内密の捜査を依頼する。 - ロイド・ハリントン(ディーン・ストックウェル / 吹替:上田忠好)
バンドのピアノマン。ロザンナに振られた腹いせに脅し文句を言ったため、ダンジガーによって殺人犯の濡れ衣を着せられそうになる。 - ワトキンス(バーナード・フォックス / 吹替:西田昭市)
客船のパーサー。コロンボ に「ボート」と「シップ(汽船)」の違いを訂正する生真面目な男。 - シルヴィア・ダンジガー(ジェーン・グリア / 吹替:寺島伸枝)
ダンジガーの妻。資産家であり、夫婦の力関係は彼女が上。「裏切ったらお払い箱よ」とコロンボに語る。 - メリッサ(スーザン・ダマンテ / 吹替:沢田敏子)
医務室の看護婦。事件とダンジガーのアリバイ工作に関わる。 - ドクター・ピアス(ロバート・ダグラス)
船の医務室の医師。
トリック解説
犯人は愛人に言い寄っていた男に罪をなすりつけようとします。なお、ショーガールはボーカルで、男はピアノ演奏を担当しています。
罪のなすりつけ
ダンジガーは、汽船に何度も乗船しており、船の構造やショーの休憩時間などを熟知していました。
- マスターキー
船内や客室を自由に移動するため、マスターキーを複製します。部屋の鍵がないと言いマスターキーを確認し、カーティス・クリッパーという道具で合鍵を作ります。合鍵作成後、道具と説明書は海に投げ捨てます。 - 請求書
バンドの男の請求書(受け取り状)入れに、銃の請求書を忍ばせます。 - 犯行用手袋
硝煙反応を隠すため、医務室から手術用のゴム手袋を盗み、犯行時に使用します。 - 拳銃を残す
犯行に使った拳銃は、海に捨てず、犯行現場の近くにあるリネン室に隠します。バンドの男が短い休憩中に犯行に及んだ、という筋書きのため、海には捨てず、拳銃を始末する時間がなかったようにみせます。 - Lの文字
ダイイングメッセージとして、口紅で「L」という文字を鏡台の鏡に残します。
アリバイ工作
犯人のダンジガーは、医務室でアリバイを作っています。
- 拳銃の用意
凶器の拳銃は、あらかじめ被害者の部屋に置いておきます。プールで心臓発作を起こし医務室へ運ばれる計画のため、凶器は部屋に置いておく必要があります。また、犯行時は時間がないため、凶器を取りにいく時間を省く必要もあります。 - 心臓発作
医者の診察で心臓発作の所見を得るため、仮病ではなく、薬を使います。具体的には、亜硝酸アミルという薬を吸い込み、心臓発作を起こしました。
犯人のミス
コロンボが罪のなすりつけに気付き、真犯人を追い詰める手がかりです。
犯行の証拠
犯人の犯行や偽装工作を匂わせる証拠が残っていました。
- 羽毛
医務室には、羽毛が落ちていました。これを船酔いのコロンボが見つけます。医務室の枕は羽毛を使っていないため、どこかの客室で羽毛が付着したことになります。 - 亜硝酸アミル
犯人が使った亜硝酸アミルは、プールのろ過機に残っていました。 - 手袋の記録
医務室の備品などは、数量が記録されていました。そのため、手袋が一対なくなっていることが明らかになります。 - 脈拍の記録
ダンジガーは、医務室に運ばれたあと、30分おきに脈と血圧を測定されています。この記録から、犯行の直後だけは、異常に脈が早くなっていることが明らかになります。
ちぐはぐな証拠
銃の領収書など、ちぐはぐな証拠が発見されます。
- 控除と領収書
バンドの男は、業務の必要経費として控除が受けられる品物の領収書だけを残していました。それにも関わらず、控除にならない銃の、領収書が残っていました。 - 銃の領収書
そもそも、殺人に使う銃の領収書を丁寧に残しておくというのが不自然です。 - 即死とダイイングメッセージ
被害者は心臓を撃ち抜かれ即死でした。しかし、鏡には、ダイイングメッセージが残っていました。 - 拳銃と手袋
犯行に使われた拳銃は、リネン室から見つかりました。しかし、手袋はありませんでした。バンドの男からは硝煙反応が出ませんでした。バンドの男が犯人であれば、手袋をしているはずですが、拳銃を捨てたリネン室にはそれがありませんでした。これに対して、犯人は、手袋ではくタオルを使ったと話し、状況を説明しています。
犯人像
犯人は船員専用通路を知っており、ショーの休憩時間、休憩の時のショーガールやバンドメンバーの行動をよく知っている人物です。
バンドの男が容疑者から外れると、常連客であるダンジガーも容疑者になります。
マスターキーを持っている
バンドの男が犯人でないとすれば、犯人はマスターキーを持っている人物です。
中古車ディーラーであるダンジガーは、車の合鍵を作る専門工具(カーティス・クリッパー)を使って、マスターキーの複製が容易にできます。
拳銃の領収書
領収書に記載する名前と購入者が一致する必要はありません。誰でもバンドの男の名前で銃の領収書を残すことができます。
購入場所はラスベガスなので、ラスベガスを訪れた人物が容疑者になります。ダンジガーは、ラスベガスによく遊びに行っています。
コロンボの罠
コロンボは、バンドの男が証拠不十分になる可能性があるので、犯行につかった手袋をみつけたいとダンジガーに話します。
コロンボの嘘を信じたダンジガーは、医務室からゴム手袋と船内の拳銃を盗み、騒音の激しい機械室で発砲し、手袋から硝煙反応が出るように細工します。この手袋を消火栓の中に隠し、着工前の訓練で手袋が見つかるようにします。
ゴム手袋の裏には手袋をはめた人物の指紋が残ります。つまり、この手袋は、消火栓の中に手袋を隠したのがダンジガーであるという決定的な証拠になります。
感想
お約束ですが、コロンボのかみさんが登場しそうで、登場しません。このエピソードはファンの間でも高く評価されているようで、しばしばファン投票のトップ10にランクインします。クルーズ船というユニークで印象的な設定が、いつもとは異なる雰囲気を生み出しています。
原題は「Troubled Waters」で直訳すると「災難な海域」や「問題のある水域」となります。邦題の「歌声の消えた海」とは異なります。
走って殺人現場へ向かうというのは古畑任三郎によく登場する気がします。
口コミ分析
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国内のサイトでは、カミさん、看護婦素敵、手袋指紋などが書き込まれています。

小ネタ
- 原題の “Troubled Waters” は比喩的に「困難な状況」や「多くの不和や問題がある状況」を意味する英語の慣用句です。豪華客船上で起きた殺人事件という状況に加えて、ダンジガーが抱えていた個人的な問題をも示唆していると考えられます。
- このエピソードは、実在する豪華客船で撮影されました。撮影当時は「スピリット・オブ・ロンドン号」という名称でしたが、撮影後の1974年10月に「サン・プリンセス号」に改名され、1975年に放送されました。
- ダンジガーが合鍵を作る際に使用した「カーティス・クリッパー」は、自動車修理工場や中古車業者などが鍵を自作するために使用する実際の機械です。
- ダンジガーが偽の心臓発作を起こすために使用した薬品は「亜硝酸アミル」。狭心症の治療などに使われる薬で、血管拡張作用により血圧を一時的に低下させることがあります。
- 犯人役のロバート・ヴォーンは、本作の監督ベン・ギャザラも出演した映画「レマゲン鉄橋」にもドイツ軍役で出演しています。
- 客船パーサーのワトキンスを演じたバーナード・フォックスは、第13話「ロンドンの傘」でロンドン警視庁のダーク刑事部長を演じており、コロンボシリーズに複数回出演しています。
- 濡れ衣を着せられるバンドのピアノマン、ロイド・ハリントンを演じたディーン・ストックウェルは、第12話「アリバイのダイヤル」で殺害される御曹司エリック・ワグナー役で出演していました。
- 熱帯気候のメキシコへ向かう船旅にもかかわらず、コロンボ警部がいつものレインコート姿で登場し、船内で浮いている様子も視聴者の笑いを誘います。ただし、船上パーティーでは珍しくアロハシャツを着て登場するシーンもあります。
- コロンボが鉛筆の芯の粉を使って手帳に指紋を採取する場面は、鑑識官がいない状況でのコロンボの「地力」を示す印象的なシーンです。「昔ながらの警察の捜査技術」という点で、指紋採取のシーンは『虚飾のオープニングナイト』にも登場していました。『虚飾のオープニング・ナイト/殺意のナイトクラブ』についてはこちらにまとめています。
- 船の乗組員の多くがコロンボを「Lieutenant(中尉)」のイギリス式発音である「Leftenant」と呼んでいます。
この記事のまとめ
刑事コロンボ「歌声の消えた海」について、あらすじやトリックをご紹介しました。最後にドラマの内容を、殺人の計画性、偽装工作、犯人のミス、動機、凶器、トリック、コロンボの罠で簡単にまとめます。犯人は、亜硝酸アミルという薬を使って、わざと心臓発作を起こしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 殺人の計画性 | あり |
| 偽装工作 | 罪のなすりつけ |
| ミス | 羽毛 |
| 動機 | 強請り |
| 凶器 | 拳銃 |
| トリック | 心臓発作を起こす薬 |
| コロンボの罠 | ― |

