刑事コロンボS4E1・第26話「自縛の紐(An Exercise in Fatality)」は、犯人が自らの発言によって自分の首を絞める(墓穴を掘る)エピソードです。派手なトリックや逆転劇よりも、些細な矛盾と犯人の言葉の端々から真実を炙り出す、古典的な倒叙ミステリーの醍醐味を味わえます。この記事では、あらすじ、登場人物とキャスト、犯人の偽装工作や結末、感想、考察、小ネタ(豆知識やトリビア)などをまとめています。
あらすじ
健康クラブ(スポーツクラブ)オーナーのマイロ・ジャナスは、クラブの社長に、高値で備品などを購入させ、利益をトンネル会社を使って着服していました。この不正が、あるチェーン店の支店長ジーン・スタッフォードに暴かれ、告発されそうになります。マイロは告発を防ぐため、スタッフォード支店長を殺害。服を着替えさせ、トレーニングの最中にバーベルを首の上に落として亡くなったように偽装します。さらに、犯行後、被害者が生きているようにみせるため、テープで被害者の声を再生し、アリバイを捏造します。
コロンボは、被害者が革靴を履いている時に襲われたような痕跡をみつけ、事故死に疑問を抱きます。そして、マイロと会った際、マイロが手に火傷を負っているのを見つけ、犯人の目星をつけます。アリバイトリックを見抜き、犯人のマイロを追い詰めようとするコロンボですが、言い逃れされ、自供に追い込むことができません。しかし、トレーニングウェアに着替えたことを知っているのは犯人しかいない、という決定的な矛盾をコロンボに突き付けられ、犯人は言葉を失います。

©Universal City Studios
登場人物とキャスト
- コロンボ警部(ピーター・フォーク)
ロサンゼルス市警の殺人課警部。運動は苦手だが、鋭い洞察力と執拗な捜査で犯人を追い詰める。 - マイロ・ジャナス(ロバート・コンラッド)
『マイロ・ジャナス健康クラブ』の創業者。53歳ながら引き締まった肉体を維持し、若さと健康を説くカリスマ経営者。裏では不正な利益を上げ、海外逃亡を企んでいた。冷静かつ傲慢な性格でコロンボを翻弄する。 - ジーン・スタッフォード(フィリップ・ブランズ)
チャットワース健康クラブの支店長。18年間国防省の監査役を務めた経験を持つ。マイロの不正を見抜き、告発準備を進めていた。コーヒー好きで中華料理を好む。 - ジェシカ・コンロイ(グレッチェン・コーベット)
マイロの秘書で愛人。ブロンドの美人。 - ルース・スタッフォード(コリン・ウィルコックス)
ジーン・スタッフォードの妻。夫とは別居中だが、彼の死の真相を探り、マイロの不正を警察に訴える。 - バディ・キャッスル(パット・ハリントンJr)
マイロの部下で詐欺師。マイロの不正経営に関与する。 - ルイス・レイシー(ダレル・ツワーリング)
会社法専門の調査員。スタッフォードに依頼され、マイロの不正について調べていた。 - トライコン工業社の女性社員(アン・コールマン)
ルイス・レイシーの元勤務先であるトライコン工業社の受付嬢。巨大なコンピューターを使った検索に手こずるコロンボとのやり取りがコミカル。 - マーフィ(ジュード・フェアズ)
健康クラブの清掃員。コロンボの捜査に最初は迷惑そうに応対するが、次第に協力的になる。 - リッカー巡査(レイモンド・オキーフ)
健康クラブでの現場検証の中心的な役割を担う巡査。 - 検死官(ビクター・イゼイ)
スタッフォードの死因についてジョークを飛ばす検死官。 - 病院の待合室の男性、トライコン工業社で書類に記入する男性(ミッキー・ゴールデン)
複数回登場するエキストラ俳優。 - トライコン工業社の警備員(エド・マクレディ)
トライコン工業社の警備員。
トリック解説
マイロは、チェーン店の社長の死を事故死に偽装し、アリバイを作ります。
事故死偽装
パイプで首を圧迫し、殺します。その後、バーベルを使ったトレーニングの最中に、誤ってバーベルを落とし、死んだようにみせます。
- 着替え
マイロが社長を襲ったとき、社長はスーツ姿でした。トレーニング中を装うため、マイロは社長をトレーニングウェアに着替えさせ、靴も履き替えさせます。 - ナイトガウン
次長は、死体をナイトガウンに着替えさせます。寝室にいたところ、物音がしたので、階下に降りたところ窃盗犯に殺されたというストーリーです。
アリバイ工作
マイロは、社長が生きているようにみせ、アリバイを作ります。
- 二つの電話
マイロの自宅には、電話回線がふたつ通っており、マイロは二つの電話番号をもっていました。一方の電話から、もう一つの方に電話し、外からかかってきたようにみせます。 - パーティー
犯行当日、マイロの自宅ではパーティーが開かれており、マイロの秘書などが招かれていました。 - テープの再生
犯人のマイロは、自宅の電話(6901)からもう一つの自宅の番号(6902、居間の電話)に電話をかけ、秘書が応答したところに、テープを使って死んだ社長の声を聞かせます。こうすることで、秘書は、社長から電話がかかってきたと勘違いします。 - 電話のライト
マイロは、電話をかけた方の豆ライトを外しておくことで、パーティーの客が、自宅からの電話であることに気付かないようにします。
犯人のミス
コロンボが事故死を疑い、犯人を追い詰める手がかりです。
- 火傷
マイロは、社長を襲ったときに、コーヒーで手を火傷しました。コロンボは、こぼれたコーヒーの跡とマイロの火傷をみつけます。 - こげ茶の足跡
マイロに襲われた社長は、逃げようとして、ワックスをかけたばかりの廊下を走ります。そのため、廊下には、革靴を履いている社長の足跡が残りました。また、マイロは、逃げる社長を追いかけたため、足跡は、取っ組み合いをしたような痕跡となって残っていました。 - 中華
被害者は、死ぬ前に、たくさんの中華料理を頼んでいました。トレーニング後に食べる食事にしては、不自然な量でした。 - バーベルの重さ
被害者の首の上にのっていたバーベルは、普段トレーニングで使っている重さよりも、はるかに重いものでした。 - 被害者の反応
秘書は、犯行の日、初めてマイロの自宅を訪れていました。被害者は、電話に出たのが秘書だったにもかかわらず、全く驚きませんでした。 - テープの発見
マイロは、自分の会社の、電話の録音装置を使って、社長の音声テープを作っていました。録音装置がコロンボによって捜査され、テープのつなぎ目などが見つかります。 - 靴紐
被害者の革靴と死んだときに履いていた運動用シューズは、靴紐の様子が異なっていました。- 革靴
蝶結びのはじめの輪は、親指の方を向いていました。これは、被害者が自ら結んだ靴紐です。 - 運動用シューズ
蝶結びのはじめの輪は、小指の方を向いていました。つまり、誰かに結ばれたと考えられます。
- 革靴
決定的な証拠
マイロは、被害者が電話で「もうトレーニングシャツに着替えた」と話したと証言。アリバイ工作のためのこの発言が、決定的なミスとなります。
- コロンボは、被害者のロッカーに残された革靴の紐の結び方から、被害者の癖を把握。
- 次に、死体が履いていた運動靴の紐が、その癖とは逆の向き(他人から結んだ向き)になっていることを実演して見せ、「この靴は被害者自身が履いたのではなく、犯人が履かせたものだ」と証明する。
- これにより、「被害者は殺害された後に、犯人によってトレーニングウェアに着替えさせられた」という事実が確定。
- 最後にコロンボはこう言います。「スタッフォードさんが最後に目撃された時(午後7時半)は背広姿だった。しかし、あんたは『午後9時の電話で、彼はもうトレーニングウェアに着替えたと言っていた』と証言した。死んだ後で、犯人によって着替えさせられた事実を、なぜアリバイがあるはずのあんたが知っていたんですか?」
「もうトレーニングシャツに着替えた」という証言は、記録に残っており、マイロの家にいた秘書などが同様の発言を聞いています。証人の存在により、犯人のマイロは証言を撤回できなくなり、完全に追い詰められます。
感想
結末の解釈を巡って多くの議論が交わされることも含め、視聴者の心に深く残るエピソードです。結末で、アリバイ工作のための発言が犯人自身の首を絞めるわけですが、それはさておき、コロンボの「35から腹が出ている」という発言が面白いです。原題は「An Exercise in Fatality」で直訳すると「死の中のエクササイズ」となります。邦題の「自縛の紐」は原題と異なりますが、犯人が自らのアリバイ工作によって自らを追い詰める状況を表現しているといえます。
- 結末の肯定派は、「秘密の暴露」という形で犯人しか知り得ない情報を口にしたマイロのミスを突いた、論理的で本格的な倒叙ミステリーの傑作と評価します。靴紐の結び方という地味ながらも巧妙な伏線も評価されています。
- 懐疑派は、マイロが「電話で聞いた」と言い張れば言い逃れができたのではないか、あるいは、コロンボの推理が状況証拠の積み重ねに過ぎず、法廷で決定的な証拠となるか疑問、と指摘します。コロンボのセリフがやや回りくどく、視聴者が混乱しやすい点も挙げられます。
- コロンボが珍しく感情的になり、マイロに激怒するコロンボの姿が印象的とされ、その背景にはスタッフォード夫人への同情心があると考察されています。
- マイロのトレーニングに付き合わされてヘトヘトになる姿や、巨大コンピューターの前でイライラする姿など、コミカルな一面も多く描かれ、コロンボの人間的な魅力が際立っています。
口コミ分析
海外サイトの口コミには、gym、health、good、greatなどが書き込まれています。
国内口コミサイトには着替える、靴紐の結び方などが書き込まれています。
小ネタ
- 本作は「溶ける糸」以来、コロンボ警部が珍しく激怒するエピソードです。スタッフォード夫人の悲劇に直面し、マイロの冷酷さに怒りを爆発させます。
- 砂浜を歩くシーンでは、ピーター・フォークが自身の鼻歌「THIS OLD MAN」を披露しています(日本語吹き替えなし)。
- スポーツジムチェーン、サプリメント、紙パックの中華料理など、現代に通じる健康志向やライフスタイルが既にアメリカ西海岸で流行していたことが伺えます。
- ルイス・レイシーの元勤務先であるトライコン工業社に登場する70年代の巨大なコンピューターと、その遅い印字速度にコロンボがイライラするシーンは、当時の最先端技術とそれに対する人々の感覚の違いがコミカルに描かれています。なお、このシーンは短いバージョンではカットされることが多いです。
この記事のまとめ
刑事コロンボ「自縛の紐」について、あらすじやトリックをご紹介しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 殺人の計画性 | あり |
| 偽装工作 | 事故死を偽装 |
| ミス | 靴ひも |
| 動機 | 不正の告発 |
| 凶器 | 鉄パイプ |
| トリック | 二つの電話 |
| コロンボの罠 | ― |
犯人は、自宅の二つの電話(別番号)を使って、被害者が生きているようにみせます。

